アクチュアリー試験講評(2023年度 生保2編)


2023年度のアクチュアリー試験問題が日本アクチュアリー会ホームページで公開されています。受験された方々は、本当にお疲れさまでした。
今年は、CBTによる2回目の試験でしたので、操作方法に慣れ親しんだ受験生も多かったかもしれません。
合格発表まであと2ヶ月程度ありますので、受験された方も、これから受験される方も気を緩めず、今のうちから試験準備を始めたいところですね。
早速、生保2について講評いたしますので、受験生の一助となれば幸いです。

1.問題数等

問題数および配点については、昨年とほぼ同じでしたので、大きな混乱はなかったように思います。また、“文字数”については、昨年に引き続き、生保2では“上限”であるのに対して、生保1では“程度”でしたので、特に、生保1と生保2を初めて同時受験された受験生では、多少の混乱があったかもしれません。

また、新型コロナ、米ドル/豪ドル建保険の標準責任準備金などの業界共通の“課題・論点”について、ESR(経済価値ベースのソルベンシー規制)もその1つと考えられますが、今年の所見問題では、事業費の管理・分析およびALM(資産負債管理)が出題され、最近のトレンド(例.物価および金利上昇など)を踏まえたものとなりました。

2.各問題のポイント

問題1(1)
講評:「生命保険会社の保険計理人の実務基準」のうち“社員/契約者配当が公正・衡平であるための要件”からの穴埋め問題です。なお、生保1でも、同基準のうち、消滅時配当のある契約に対する“アセット・シェア”に関する確認が出題されましたので、来年以降は、配当以外の条項(例.責任準備金の確認、事業継続基準の確認など)から出題される可能性が高いものと思われます。

また、個人的には“市場金利の趨勢”の“趨勢”が手書きでは書きにくいため、CBTの変換機能を活かして当該部分を穴埋めにした方がよかったように思います。

問題1(2)
講評:保険計理人の関与事項に関する穴埋め問題です。保険業法施行規則第77条が元ネタですが、問題文には“保険業法施行規則第77条”が明記されておりません。なお、同関与事項は、平成22年度問題1(2)で出題されていますが、微妙に空欄位置が異なります。

問題1(3)
講評:危険準備金などの各種準備金等が、財務諸表でどこに計上されるものかを選択させる問題です。なお、選択肢のうち「(G)社員配当平衡積立金」については、そもそも当該積立金を計上している会社が多くないため、「(F)社員配当準備金」と同列に考えた受験生もいらっしゃったかもしれません。

特に、生命保険会社にお勤めの方は、これを機に、生命保険協会が公表している「全社合計の財務諸表」の勘定科目とお勤め先の同科目を比較しながら、計上されていない科目の理由などを探ってみるのもよい勉強になるでしょう。

問題1(4)
講評:現行のソルベンシー・マージン基準のうち、“保険料積立金等余剰部分”および“負債性資本調達手段”に焦点を当てた問題です。なお、平成24年度問題1(4)でもソルベンシー・マージン比率の計算問題が出題されていますが、当時の計算ルールと現行のルールとが若干異なる(税効果控除前/後)ため、同比率の計算自体は出題しにくいかもしれません。

いずれにせよ、ESR(経済価値ベースのソルベンシー規制)の導入で、現行制度(例.3号の2収支分析、ソルベンシー・マージン比率の確認など)も保険計理人の確認業務から外れる可能性もありますので、来年・再来年の出題が最後になるかもしれませんね。

問題1(5)
講評:一般事業会社における「有価証券の保有目的区分」としては、売買目的有価証券などがありますが、問題文にある“(その他有価証券以外に)4つ列挙”という点が特徴です。つまり、一般事業会社にはなく、生命保険会社独自の区分という意味で「責任準備金対応債券」という名称を解答させたかったのだろうと推測されます。なお、当該区分の“名称のみ”を解答すればよいのですが、敢えて“解答の制限字数40字”とすることで、受験生の混乱を狙ったのかもしれません。

問題1(6)
講評:区分経理上の運用資産管理方式について名称を挙げて簡潔に説明する問題です。
監督指針で区分経理に関する記述がありますが、何度繰り返して読んでも理解がおぼつかない部分が、この“運用資産管理方式”のように思います。(←だからこそ出題されているのでしょう。)

また、こちらの文字数制限はそれぞれ120字となっていますが、前問と異なり“簡潔に説明”する必要があるための配慮と考えられます。なお、筆者が準会員の頃、“ブタ餅(ぶたもち)”で当該方式(ぶ:分別管理、た:単位別持分、もち:持分)を暗記し、最初に「資産」を最後に「管理方式」を付け加えておりました。

問題2(1)
講評:収益としての保険料がもつ特徴的な側面を4つ挙げる、いわゆる“列挙問題”です。“自己資本の4つの機能”や“全社区分の4つの機能”など、特に、生保2ではこの“4つ列挙問題”が有名です。経済価値ベースの財務諸表と向き合う場合、従来の利源分析を含めた“保険会社の収益管理の在り方”も、今後の大きな課題の1つと言えるかもしれません。

問題2(2)
講評:リスク管理におけるリスクモデリングの限界とその対応方法についての問題です。教科書『第4章 リスク管理』4-5~6ページを覚えていれば楽勝ですが、他の章と比べて『第4章 リスク管理』は文字が小さいため、一言一句を“丸暗記”することは不可能に思います。このため、例えば、“大見出し・中見出しを暗記して、段落を塊として捉える”、“自分なりの言葉に言い換える”といった工夫が必要になるかもしれませんね。

問題3(1)
講評:第Ⅱ部で「事業費の管理・分析」が出題された事例としては、平成27年度問題3(2)がありますが、当時の配点は20点でした。このため、新たに“(ア)予定事業費枠の意義と役割について簡潔に説明(4点)”を追加することで25点の配点となるよう工夫されたものと思われます。なお、新型コロナを契機とした“非対面営業”や“物価水準上昇によるインフレ対策”といった時事ネタを、事業費の管理・分析に絡めた出題は、実務上の大きな課題の1つと言えるでしょう。

問題3(2)
講評:前問と同様に、本問も“金利上昇”という時事ネタを絡めた出題ですね。特に、“個人向けの貯蓄性商品を主に販売する生命保険会社”という前提で、金利感応度がより大きな会社に属するアクチュアリーとしての“問題解決能力”が求められています。ESR(経済価値ベースのソルベンシー規制)対応という観点からは、(伝統的な)変額保険などに販売をシフトさせることも選択肢の1つかもしれませんが、一時払終身保険など高齢者・富裕層向けの商品戦略も重要な論点になります。

3.次回以降に向けて

いかがでしたか。第Ⅰ部対策としては、やはり、教科書を中心として監督指針や実務基準等、さらに余裕があれば法令や告示等の理解が極めて重要です。一方、第Ⅱ部対策としては、様々な情報源に注意しつつ、常日頃から課題意識を持ち、自分自身の意見や考え方を“自分の言葉で分かりやすく相手に伝える練習”をしておくことも大切です。

なお、昨年の当コラムで、“(2022年は)リスク管理が出題されましたので、来年はALMかな?と予想して、今のうちから十分な試験対策をスタートさせることも重要”と記しましたが、第Ⅱ部で見事にALMが出題されました。かなり早めの“予想問題”が的中したことがとても心地よいです。

 

(ペンネーム:活用算方)

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