大震災とアクチュアリー


2024年1月に発生した「令和6年能登半島地震」は、元旦に発生した大地震(震度7)ということもあり、“実家等に帰省中で(非出身者の配偶者・こども等にとって)不慣れな土地鑑”、“お正月休み中の(会社内の)緊急連絡網の限界”、“速やかな物資補給の困難さ(道路の寸断)”、“地形や降雪によるライフラインの復旧遅延”など、“平日の災害”や“冬季以外の災害”と異なる様相も呈しています。

一方、ウクライナ・中東方面における紛争状況は、残念ながら未だ収束が見出せず、我が国を含めた“後方支援の国々”にとっても援助費用の限界など、様々な課題が露呈しているようにも思います。

そこで、今回のコラムでは、戦争を含めた「大震災」に対するアクチュアリーの心構えについて、過去の記憶を辿りながら、思いつくところを述べてみることといたしましょう。

1.アクチュアリージャーナル第79号「東日本大震災号」

2012年3月に刊行された“アクチュアリージャーナル(日本アクチュアリー会)”は、東日本大震災の発生から1年が経過した節目であり、貴重な史実として震災関連のデータおよび今後のリスク管理の在り方まで、地震研究の専門家を交えた貴重な論文が掲載されています。
地震研究をはじめとする基礎研究に文句をつける筋合いは当然ないのですが、アクチュアリーとしては、やや“物足りなさ”を感じずにいられません。

実際、例えば、普通保険約款上の『保険金削減規定』には全く触れられておらず、危険準備金等の内部留保が十分であることの1つの証左であること自体は素晴らしいことですが、一方、“どのような事態に陥った場合に免責・削減条項を適用するのか?”という、たとえ一般的なルールでも構わないので、何らかの方針・方策についても是非、触れていただきたかったところです。
後世のアクチュアリー達が紐解いた場合、どこまで役立つ情報となるのか、老婆心ながら疑問に思わざるを得ません。

なお、話が飛びすぎかもしれませんが、巷の噂では、『インシュアランス生命保険統計号』等で有名な「保険研究所」の経営が特殊な状況にあるようでして、昭和・平成・令和と3世代に跨る貴重な統計データが、今まさに途切れるかもしれない状況下で、兎に角、後世に歴史的データだけでも着々と残し続ける精神を決して忘れないようにしたいものです。

2.削減条項不適用の決断

昔話で恐縮ですが、1.に関連して思い出した逸話を一つ。
1995年1月17日に兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)が発生しましたが、阪神高速道路の橋げた倒壊など、陸路での「観測」が困難となったため、大阪南港から船を出して、六甲沖合の海上から現場を視察した上で、全額支払(=地震免責条項不適用)を決断された生命保険会社があった模様です。

95年当時は、まさに保険業法改正を控えた時代であり、保険業界にとっても、ソルベンシー・マージン基準の導入など、大きく保険計理等が変革期を迎える頃合いでしたので、当時、入社間もない“鼻たれ小僧”であったアクチュアリー見習いの筆者は、改めて、保険の公共性に深い思いを馳せた記憶が未だに鮮明に残っています。

もっとも、それから2年後に、戦後初となる生命保険会社の破綻を目の当たりにするのですが、紙面の都合で、その辺りのお話については、また改めてのコラムで披露することといたします。

3.戦争その他の変乱

大手生保のアクチュアリーでは、たとえ、商品開発部門に配属されても、新商品開発等で普通保険約款案の作成に直接従事する機会はそれほど多くないかもしれません。
筆者も、転職後に中堅生保でお世話になった際、初めて本格的に普通保険約款の新旧対比表を作成して、主務官庁へ説明したことがきっかけとなり、大昔学習した「約款解説書」を思い出す(←もっと正確に言えば、思い出さざるを得ない状況に追い込まれた)機会を得ました。

その際、保険数理専門官から、“ところで、「その他の変乱」って一体なんだったっけ?”と口頭試問を受け、隣で“モジモジしている”約款担当者を見ながら、思わず“通常の警察力では制御できない暴動騒乱状態を指し、過去の事例では、昭和43年10月に発生した「新宿騒乱事件」が該当します。”と、単に頭の片隅にあった“日本語”を多少緊張しながら申し上げたところ、“君はアクチュアリーなのに約款も詳しいんだなあ。信頼できるね!”とお褒めの御言葉を頂戴したのが、この上ない喜びへと変わったのは、帰社中の電車内でした。

“ニタニタと思い出し笑い”をする中年アクチュアリーの目前で座しているご婦人が筆者の顔を不思議そうに(気持ち悪そうに?)ジロジロ観ていたらしいのですが、帰社後に自席に着席した際、“隣でモジモジしてい「た」”担当者から初めてそのことを指摘され、それ以降、社外では必ず“マスク着用”を心がけるきっかけになりました。

4.不慮の事故に「戦争」が含まれる?

これまで保険相談等でお客さまが加入されている生命保険の約款を幾度も見てきた(はずの)著名FPの方と雑談をしていた際、約款別表の「不慮の事故(災害)」の定義に「戦争」があるのはご存知でしょうか?と水を向けると、大変驚いた表情をされたのが記憶に残っています。

いわゆる「ICD-10」コード(Y35~Y36)の「法的介入および戦争行為」が約款(別表)に掲載されることが多く、例えば、以下のリンク先にある約款(111ページ)がそのようになっています。もっとも“国営時代(=民営化前)”には、地震免責自体もなかったようですので、戦争に比べるとまだ低リスクという評価かもしれませんが。
https://www.jp-life.japanpost.jp/products/clause/pdf/syusin/201710/syusin_2017_10_yakkan_1.pdf

なお、“モノの本”によれば、第二次世界大戦でも国が50%を再保険で引き受ける代わりに、戦争による保険事故が全額(=削減されず)支払われたことも有名な事例です。

5.損保の戦争担保特約

国際取引が生命保険よりも多い損害保険の世界では、船舶等が受ける「戦争リスク」を補償するケースもあるようでして、例えば、以下のリンク先にある商品がその一例です。
https://www.sompo-japan.co.jp/hinsurance/risk/ship/vesselwar/

なお、“何をもって戦争とみなすか?”については諸説あるようでして、ジェトロ(JETRO:日本貿易振興機構)が認定すれば“戦争”と見做されると先輩アクチュアリーからお伺いした記憶があります。(←間違いであればスミマセン)

6.幻の“予言漫画”

東日本大震災を的中させたことでも有名な、「たつき諒」氏による『私が見た未来 完全版』によれば、“本当の大災難は2025年7月にやってくる”そうです。
「震災」ではなく「災難」という単語が用いられている点が聊か不気味に感じますが、個人的には「災難」の文字を見ると、アルフレッド・ヒッチコック監督の「ハリーの災難」を思い出します。

上記の「漫画」が事実であれば、リニアモーターカーに乗車して大阪夢洲でギャンブルという筆者の“細やかな”夢(洲)が実現できなくなります。(←そういう問題ではないかもしれませんが)

もっとも、違う意味で開催が危ぶまれている“(第2回目の)大阪万博”にも、果たして無事に行ける日が来るのでしょうか。。。
アクチュアリーとしては、せめて、“(第2回目の)ICA東京大会”には、是非、参加したいと切に願うばかりです。

いかがでしたか。英語学習を久々に再開しようとYouTubeで中高年向けの英語教材を探していたところ、有名な米国テレビドラマ『フレンズ』の動画
を見つけました。

“ゴミなどで排水溝がつまる”という超簡単な日常表現(例.1分40秒付近の字幕参照)も、英語となると“とたんに”難易度があがりますね。ちなみに“chute”という単語をネット辞書で調べると(https://eow.alc.co.jp/search?q=chute)、“滑り台”という意味もあるようですが、思わず、元旦の日航機から滑り降りるシーンを思い出しました。

(ペンネーム:活用算方)

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