農林水産大臣の開き直り!?


このコラムを執筆しているのは、2023年3月ですが、生命保険業界に長く身を置くものとして、年度末最後の“月”は、年責(=1年間の営業目標)を達成するために、追い込み(=新契約獲得)に専念する時期でもあります。

一方、今年5月に広島で開催される、G7サミットでは、開催地が首相の御出身地ということもあり、4月の統一地方選挙などの結果次第では、サミット後に衆議院の解散・総選挙または内閣改造なども噂される中、ウクライナ情勢を含め政治的ニュースからも、ますます目が離せない年になりそうですね。

そこで、今回のコラムでは、農林水産大臣の本音ともとれる、しかし、聞き方によっては“開き直り(失礼!)”ともとれるニュースについて、個人的感想などを交えながらご紹介して参ります。

1.きっかけ

公益社団法人 日本アクチュアリー会から、“「生命保険会社の保険計理人の実務基準」の改正について”が公開された2023年3月14日(火)に、TBSで放送された“news23”で、耳を疑うようなコメントが農林水産大臣からなされました。
幸い、YouTubeにて、当時の動画が公開されていますので、当該ニュースをご覧になっていない方は、まず、こちらをご覧いただければと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=Jdr39H3IOas

同大臣曰く、
“自分は農協出身”
“(不適正募集について)しょうがないということで今まで目をつぶってきた”
“悪しき慣例だった”
とのことです。

大臣として、また、政治家として、本音で(過去の過ちを)正直にコメントされること自体は歓迎されるべきですが、そもそも、このような考え・経験を有している方に、大臣としての適性があるかについては、議論の余地があるように思います。
果たして、これを見た関係者は、どのように感じるのでしょうか?
当事者の方々の悲痛な叫びが心に染みわたります。
https://www.youtube.com/watch?v=1vZELunl1sM

なお、農林水産省ホームページでも、大臣の記者会概要が公開されています。
https://www.maff.go.jp/j/press-conf/230314.html

2.保険業界に置き換えると

JA共済は、全労済、コープ(CO・OP)共済、都道府県民共済とならんで、いわゆる“制度共済”と呼ばれていますが、いずれの共済もその契約規模をみれば、大手生保を凌ぐ勢いがあるように見えます。
仮に、今回の大臣発言を、生命保険業界におきかえた場合、例えば、(可能性は極めて低いですが)生命保険会社の出身者が金融庁長官になった場合に、
“自分は生命保険会社出身”
“(不適正募集について)しょうがないということで今まで目をつぶってきた”
というコメントを、万が一にもした場合、果たして、世論や野党は黙認するのでしょうか?もし、黙認しないのであれば、何故、農林水産大臣を罷免する動きが出てこないのか、甚だ疑問です。

郵政民営化と同様、JA民営化の動きも出てくるかもしれませんね。

なお、念のために申し上げますが、業界実務経験者がトップに立つこと自体を否定しているわけではありません。実際、金融庁にも(保険会社や信託銀行出身の)保険数理専門官がいらっしゃいますし、(廃止された)金融庁検査局においても保険会社出身の(主任)検査官がいらっしゃいました。

3.共済の“新契約高”

少し文字数に余裕がありますので、ここで、前々から気になっている“保険と共済の違い”について記述いたします。なお、本件は、以前のコラム『2021年5月15日 (土) 生命保険会社の決算業務』でもご紹介しておりますので、併せてご覧いただけますと幸いです。

まず、新契約高の表示についてです。
ご案内のとおり、生命保険業界では、「新契約に転換“純増(=転換前後の保険金額の差額)”を加えた保険金額」を新契約高と表示していますが、最近の第三分野商品の台頭により、年換算保険料など他の指標も開示されています。
一方、共済の場合、「新契約に転換“増(=転換後の共済金額)”を加えた共済金額」を新契約高と表示している模様です。

残念ながら、共済のディスクロージャー資料には、新契約高の定義が見当たりませんが、本件は制度共済のご担当者から直接、お伺いしましたので、多分その通りなのだろうと思います。
もっとも、保険と共済とでは、主務官庁も異なりますし、これまでの事業の発展経緯なども相当異なるようにも思いますので、必ずしも統一させる必要はないかもしれませんが。

4.共済の“保有契約高”

転換(後)契約も新契約には違いないため、(差額ではなく)転換(後)契約の共済金額全額を「新契約高」に計上するという考え方の下、制度共済の事業統計ルールにも一理あるかもしれません。
一方、「保有契約高」については、流石に、共済金額と保険金額の概念が等しいので、保険と共済で「保有契約高」に違いはないのだろうとも考えられます。
しかし、ご案内の通り、制度共済の場合、いわゆる“生損保兼営”が認められているため、一口に「保有契約高」といっても、実は、損害保険に近い共済もカウントされています。

特に、自動車共済では、民間損保と同様に“対人無制限”の補償が一般的でしょうから、仮に、同共済契約が1件でもあれば、保有契約高は、たちまち「∞(無限大)」になってしまうという気もしなくもありませんが。

90年代の終わり頃、当時、関西方面で仕事をしていたのですが、自宅のポストに某共済の募集ビラが投函され、その中に、“〇〇共済は大手生保△△生命よりも保有契約高は大きく、まさに共済の方が信頼されていることの証。”という趣旨のコメントが大きく表示されていた記憶があります。
実際、当時は日産生命を初めとして、2000年代にかけて大量に発生した“生保破綻”に向かう時代でしたので、今思えば、当時の共済ビラに先見の明があったという見方もできるかもしれません。もちろん、“誹謗中傷”はアウトですし、ましてや、イコールフッティングではない、保有契約高という1つの指標に基づく比較には客観性が欠けています。

いかがでしたか。思わぬ形での“ホワイトデー”となった2023年ですが、適正な募集体制を構築することが、長い目で見れば、結果的に業界全体への信頼性確立につながるということを業界人の一人として、しっかりと肝に銘じたいと考える良い機会になりました。

 

(ペンネーム:活用算方)

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