学ぶことに貪欲な姿勢が、データサイエンスの分野でも生かされる


―公認会計士、アクチュアリー、データサイエンティストという異色の経歴ですね。どのようにキャリアを築こうと考えていたのでしょうか。

大学で数学を学ぶうちに、数学に関わる職業に就けたらいいなと思うようになったが、具体的にキャリアデザインを考えていたわけではありません。しかも在学中は、周りに数学オリンピックで金メダルを取ったような天才ばかり。「これを仕事にするのは無理」と早々に諦め、公認会計士の道に進みました。アクチュアリーという職業を知ったのは、公認会計士として監査法人に入ってからです。企業年金監査を担当し、勉強しているうちに、数学を使ったこんな仕事があるのかと興味を抱き、目指すようになりました。

―その後、アクチュアリーの道に進んでいったのですね。

そうですね。最初は、監査をやる上でも数学を勉強しておくといいかなという程度でしたが、年金の勉強の方が合っていると思い直し、企業年金業務に集中できるコンサルティング会社に転職しました。監査業務をやりながらアクチュアリーの勉強を進めるのが物理的に難しく、このままでは絶対に受からないと思ったからです。
転職後は、まず毎年の決算業務を担当し、お客様が持っている年金の負債価値の確率計算をしていきます。その業務に慣れてきたら、会社の人事制度変更に伴う年金の見直しを担当。制度をどう動かすと債務・費用がいくら膨らむのかを計算して、人事面・財務面で最適な制度を設計していきます。
企業年金のコンサルティングは、すべて仮定の計算の上に成り立ちます。「今いる従業員が何年後に辞める確率がどれくらいか」「その場合、退職時にいくら払う必要があるのか」を計算し、それを現在の価値に変換して年金の債務を算出します。辞める確率は、あくまでも仮定。その仮定が少し動くだけで、債務が数億円規模で動くケースもあるので、仮定をできるだけ精緻に詰めて関係者が納得することが重要です。それが企業年金を扱う面白さであり、むずかしさでもありますね。

―印象的な仕事はどのようなものがありましたか。

M&A(企業の買収・合併)案件ですね。企業が合併する際に、年金制度をどう合併させていくのかを考えます。年金制度がネックとなり、企業合併が進まないケースも実際にあるので、アクチュアリーとして年金数理に基づき、人事・財務の観点から解決策を提案していなかければいけません。「この制度を合併させるとこれくらいコストが増えます」「それを合併による対価で調整しなくてはいけません」とお客様とやりとりを重ね、両社が納得する形で無事M&Aが成立した瞬間は、達成感と安堵感がありました。

―データサイエンティストの道に進んだきっかけは何でしたか。

統計学の知識を使って、何か新しいことにチャレンジしたいというのが純粋な気持ちでした。そこで、ビッグデータを解析して世の中に新しい価値を提供するデータサイエンティストという職種の存在を知り、挑戦してみようと思ったのです。
2013年に入社した当社(デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社)は、デジタル広告ビジネスを手がける企業として、媒体社や広告主が抱える課題を、広告プランニングやアドテクノロジーを駆使して解決していきます。その中でデータサイエンティストは、例えば、広告効果を最大にするために、広告を最適なユーザーに、最適なタイミングで、最適な媒体で届けるためのデータ整理をしていきます。膨大なビッグデータを、媒体社や広告主にとって価値ある情報にするための分析が、データサイエンティストの仕事と言えます。

―データサイエンティストの仕事をする上で、アクチュアリーのバックグラウンドは役立ちましたか。

データサイエンスには、統計と機械学習、データマイニングの知識が必要だと言われています。統計の基礎知識は役立ちますが、新しく勉強すべきことも膨大なので、統計がわかるからデータ解析ができるわけではない。「勉強し続ける」姿勢や習慣が身についているという点で、アクチュアリーのバックグラウンドは役立つと言えるでしょう。

―データサイエンティストの面白さはどんなところにありますか。

まず、日々変化を続けるインターネット広告の世界にいることが、非常に刺激的です。発案したシステムが特許を取得したこともありますし、そのスピード感には飽きません。今はインターネット広告の分野のみでデータ解析をしていますが、今後はデジタルマーケティングの領域全体にも進出していきたいですね。
データサイエンスはまだまだ新しい分野ですが、数学的な基礎があり、学ぶことに貪欲な人には非常にエキサイティングな仕事だと思います。「アクチュアリー正会員になれたから、もう勉強はおわり」と思うようなタイプには向かない仕事ですが、アクチュアリーの知識ベースを生かして新しい分野に挑戦したいと思える人は、キャリアプランのひとつの選択肢に入れてみてもいいかもしれません。

**プロフィール**

那須川進一さん
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社 プロダクト開発本部 ビッグデータ解析部 チーフデータサイエンティスト。
公認会計士、アクチュアリー正会員資格 所有。
東京大学理学部数学科卒業。在学中に公認会計士試験に合格し、監査法人に入る。その後、組織人事のコンサルティング会社で6年間コンサル経験を積み、現職へ。

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