監査法人で働く会計士のよくある転職理由とは?
監査法人に所属する公認会計士や若手スタッフの中には、日々の業務にやりがいや成長を感じながらも、「このままここで働き続けていいのだろうか」とふと立ち止まる瞬間があります。監査という専門性の高い業務に従事する一方で、自分のキャリアの可能性を広げたいという思いから、転職を検討する会計士も少なくありません。
では、実際に転職を考える会計士は、どのような理由で次の一歩を踏み出しているのでしょうか。ここでは、監査法人で働く会計士に多い代表的な転職理由を3つ紹介します。
希望するキャリアプランに合わない
監査法人は、監査業務に特化した専門機関です。確かに会計や財務の知識を深めるには最適な環境ですが、経営に関与したい、戦略立案に携わりたい、新規事業の立ち上げに関わりたいなど、よりビジネス寄りのキャリアを描いている方にとっては、次のステージが見えにくいと感じることがあります。
特に「監査だけでは物足りない」「FAS(Financial Advisory Services)や事業会社での活躍を目指したい」と考える方にとって、監査法人に残ることがキャリアの成長を妨げてしまう可能性もあります。そのため、自身の理想とするキャリアに合ったフィールドを求めて、転職を選ぶケースが増えています。
クライアントに寄り添った仕事がしたい
監査法人で働く会計士の中には、「もっとクライアントと深く関わり、実際の経営課題に対して直接的に貢献したい」と考える方が少なくありません。こうした思いが転職を検討する理由となる背景には、監査業務における“独立性”の問題があります。
監査法人はその立場上、監査対象となるクライアントに対してコンサルティングや業務改善の提案といった、いわゆる「アドバイザリー業務」を提供することができません。これは職業倫理として当然の制約ですが、だからこそ、企業の実務に踏み込んで支援したいという想いが強い方にとっては、フラストレーションを感じる要因にもなります。
さらに、特にBig4では、グローバルでの品質管理が年々厳格化されており、業務の多くが社内向けの調整や報告対応に割かれる傾向が強まっています。その結果、クライアントのためというよりも“品質管理のための作業”が増えていると感じ、「本当に顧客の役に立っているのか?」と自問する会計士も少なくありません。また、こうした煩雑な社内業務は労働時間の長時間化にもつながり、モチベーション低下や離職意向の高まりにも影響を与えています。
このようなジレンマを抱える会計士の多くは、FAS(Financial Advisory Services)やアドバイザリーファーム、あるいは事業会社の経営企画・財務部門などへ転職し、自分の知識や経験を活かしてクライアントの課題に直接向き合える環境を求めています。クライアントの成長や変化を間近で支えるやりがいを得るために、「クライアントに寄り添える働き方」を軸にキャリアの見直しを図る方が増えているのです。
激務でワークライフバランスが保てない
特に繁忙期には長時間労働が続き、深夜や休日の業務が常態化している監査法人も少なくありません。クオリティを追求するあまり、ワークライフバランスが崩れやすい点に悩む方も多いのが実情です。
「この働き方を10年後も続けられるだろうか」「家族との時間をもっと大切にしたい」といった価値観の変化が、転職を考えるきっかけとなることもあります。近年では、監査経験を活かしながらも労働環境が改善されたアドバイザリー部門や、柔軟な働き方が可能な企業への転職が増えています。
監査法人の面接で転職理由をうまく伝えるためのポイント

監査法人やFAS、事業会社など、どの転職先であっても「転職理由」は必ず面接で問われる重要な質問です。とくに会計士の転職では、専門職であるがゆえに「なぜその職場を離れたいのか」「どのようなキャリアを描いているのか」が注目されやすく、回答次第で印象が大きく変わります。
ここでは、転職活動を成功に導くために意識すべき5つのポイントを紹介します。
否定よりも「前向きな理由」で語る
「激務でつらかった」「上司と合わなかった」など、ネガティブな理由は共感を得られにくく、印象も悪くなりがちです。たとえ本音がそうであっても、伝え方を変えることで印象は大きく変わります。
たとえば「もっと幅広い経営支援を経験したい」「専門性を高めて将来的に企業価値向上に貢献したい」など、自分の意欲や将来志向に基づいた“前向きな理由”に変換することが重要です。
転職理由と志望動機の一貫性を意識する
転職理由と志望動機はセットで評価されます。「なぜ辞めたいのか」と「なぜこの会社を選んだのか」がつながっていなければ、説得力に欠けてしまいます。
たとえば、「監査法人ではクライアントに深く関われないことに課題を感じた」という転職理由なら、「アドバイザリー業務で直接支援できる貴社に魅力を感じた」という志望動機につなげると一貫性が生まれ、納得感のある回答になります。
会計士としてのキャリアビジョンを示す
目先の不満や条件面だけで転職を語ってしまうと、長期的な視点がないと見なされる可能性があります。重要なのは、「どんな会計士として成長したいのか」「将来どう貢献したいのか」というキャリアビジョンを語ることです。
面接官は、候補者がその企業や業務を通じてどのように価値を発揮してくれるのかを見ています。自分なりのビジョンを持ち、それに合致した転職であることを示しましょう。
現職の不満は「学び」に変換する
たとえ今の職場に課題を感じていても、「これまでは◯◯な状況でしたが、それによって自分の価値観や目指す方向が明確になりました」といった形で、前向きな学びとして言語化することが大切です。
たとえば、「繁忙期の対応を通じて、より効率的な働き方やチームマネジメントの重要性に気づいた」など、苦労した経験を通じて得た気づきを話せば、誠実さと成長意欲の両方をアピールできます。
決まり文句ではなく、自分の言葉で伝える
テンプレート的な転職理由は、どうしても他の応募者と差別化が難しくなります。たとえば「スキルアップしたい」「幅広い経験を積みたい」などの抽象的な言葉ではなく、自分の実体験に根ざしたエピソードや背景を交えて語ることで、説得力が増します。
「どんな経験があり」「何に違和感を覚え」「どんな仕事に魅力を感じたのか」といった具体的な要素を織り交ぜて、自分だけの言葉で伝えることを意識しましょう。
転職理由のNG例とその改善方法

転職理由は、面接においてあなたの価値観やキャリア観を伝える重要なポイントです。しかし、理由の伝え方を間違えると、「この人は自社でも同じ理由で辞めてしまうのでは」とネガティブに捉えられてしまう恐れがあります。ここでは、よくあるNGな伝え方と、それを好印象に変える改善方法を紹介します。
「残業が多すぎる」だけではNG
監査法人では、特に繁忙期になると長時間労働が発生しやすく、これを理由に転職を検討する方も多いでしょう。ただし、「残業が多すぎてつらい」とだけ伝えてしまうと、「耐性がない人」「責任感が弱い人」と見なされるリスクがあります。
【改善方法】
「繁忙期の働き方を経験する中で、自分が最も力を発揮できるのは、長期的に安定して成果を出せる環境だと気づきました。今後は、ワークライフバランスを保ちながら専門性を活かせる職場で、より質の高いアウトプットを目指したいと考えています」といったように、“働き方”から“働きがい”への意識の変化を交えて伝えると、前向きな印象になります。
「やりがいがない」では抽象的すぎる
「やりがいを感じないから辞めたい」という理由もよく聞かれますが、このままではあまりに漠然としており、面接官に「結局、何が不満だったのか」「うちで本当に満足できるのか」が伝わりません。
【改善方法】
「監査を通じて企業の財務状況をチェックするだけでなく、もっと経営の意思決定に関わるような実務支援がしたいと感じるようになりました。特にM&Aや企業再生のような、事業に直接インパクトを与える領域で価値を発揮したいと考え、転職を決意しました」といった形で、「何に物足りなさを感じ」「どんな方向に進みたいのか」を明確に言語化することで、納得感のある理由に変わります。
監査法人からの転職で多い転職先とは?
監査法人で経験を積んだ会計士やスタッフは、その専門性と実務力を武器に、さまざまな業界・職種への転職が可能です。とくに近年では、キャリアの選択肢が多様化しており、「次はどこで何をするべきか」と悩む方も少なくありません。ここでは、監査法人からの転職で特に多い4つの代表的な転職先を紹介します。
監査法人の転職については以下の記事で詳しく解説していますので、合わせてご確認ください。
監査法人への転職|キャリアパスや成功事例、成功のポイントを解説
他の監査法人
転職先として一定のニーズがあるのが、中堅・中小の監査法人への転職です。現在、大手監査法人で働く会計士の中には、「よりクライアントに近い立場で働きたい」「もう少し柔軟な働き方をしたい」といった理由から、規模の小さな監査法人へ移る選択をする方もいます。中堅・中小法人では、クライアントとの距離が近く、業務範囲も広がるため、やりがいを感じやすい環境であることが一因です。
大手法人内でキャリアの幅を広げるのであれば、監査部門からアドバイザリー部門(財務会計やリスクマネジメント領域など)への異動や転職が一般的です。転職を通じて本質的にやりたいことを実現したい場合、自身の希望と転職先での役割が合致するかどうかを丁寧に見極めることが重要です。転職先として意外と多いのが、同業である他の監査法人です。職場環境やチームとの相性、担当クライアントの業種・規模などが理由で転職を決断するケースがあります。たとえば、よりグローバル案件に携わりたい、特定業界に強い法人で専門性を高めたいといった目的から、同業他社への移籍を選ぶことは珍しくありません。
ただし、同じ規模の監査法人では待遇面や業務範囲に大きな差が出にくいため、本質的にやりたいことが実現できるかを事前に見極めることが大切です。
コンサルティングファーム
FAS(Financial Advisory Services)やアドバイザリー業務を提供するコンサルティングファームは、監査経験を持つ会計士との親和性が高く、非常に人気の高い転職先です。特に財務デューデリジェンスやバリュエーション、事業再生、PMI(M&A後の統合支援)などの領域では、監査で培った分析力や財務知識が高く評価されます。
また、フォレンジック(不正調査)など専門性の高い分野に進む方も増えており、「監査の先にある実務」を経験したい方には非常に適した環境です。
税理士法人・会計事務所
監査法人から税理士法人や中小規模の会計事務所へ転職するケースも一定数あります。特に、税務や相続、会計アウトソーシングなどに関心がある方にとっては、より“身近な企業支援”ができるフィールドとして魅力を感じやすいでしょう。
監査とは異なる業務知識が求められるものの、クライアントと長く信頼関係を築ける業務が多く、地域密着型の支援にやりがいを感じる方にとっては相性の良い選択肢です。
事業会社
監査法人から事業会社の経理・財務・経営企画部門などに転職する方も年々増えています。特に近年では、上場準備中のベンチャー企業や、グローバル展開を加速する大手企業など、会計士の専門性が求められるポジションが増加傾向にあります。
中には、CFO候補や経営陣に近いポジションでの採用もあり、将来の経営参画を見据えたキャリアパスを描くことも可能です。より実務に根ざした意思決定に関わりたい方にとって、事業会社は非常に魅力的な選択肢となっています。
公認会計士の転職ならVRPパートナーズへ

転職を考える会計士の中には、「自分に合った転職先がわからない」「面接で転職理由をどう伝えるべきかわからない」と悩む方も多くいらっしゃいます。監査法人での経験がどのように活かせるのか、希望する働き方がどんな環境で実現できるのかを一人で見極めるのは容易ではありません。
VRPパートナーズは、公認会計士の方に特化した転職支援を行っており、監査法人に勤める方々の悩みやキャリア課題に精通しています。FAS(Financial Advisory Services)やアドバイザリー業務、事業会社の経理・財務ポジションなど、多彩なキャリアパスの中から、あなたの志向に合った選択肢をご提案します。
また、転職理由や志望動機の整理、面接対策、履歴書・職務経歴書の添削といった選考支援も丁寧に対応。単なる職場紹介ではなく、会計士としてのキャリアに真剣に向き合う伴走者として、納得のいく転職をサポートいたします。
まとめ
監査法人で働く公認会計士が転職を考える理由には、「キャリアプランとのズレ」「クライアントに寄り添った仕事ができない」「ワークライフバランスの限界」といったさまざまな背景があります。しかし、転職そのものが目的なのではなく、自分らしい働き方や将来のビジョンに近づくための手段であるべきです。
大切なのは、転職理由をネガティブに語るのではなく、自分の価値観や成長志向をベースに前向きに伝えること。そして、自分の強みや可能性に気づき、次のフィールドでどんな価値を発揮したいのかを明確にすることです。
VRPパートナーズでは、そうしたキャリアの軸を一緒に言語化し、あなたの未来につながる転職を全力で支援いたします。迷いがある方こそ、まずは一度ご相談ください。あなたの可能性を広げる第一歩を、私たちがともに歩みます。