そもそもIPOとは?会計士にとっての位置づけ
企業が成長のステージをさらに進めていくうえで、大きな転機となるのが「IPO(新規株式公開)」です。IPOは、経営体制の透明性や財務の信頼性が厳しく求められるプロセスであり、専門性を持つ公認会計士の関与が不可欠とされています。ここでは、まずIPOの基本的な目的や概要、そして会計士が果たす役割について解説します。
IPO(新規株式公開)の概要と目的
IPO(Initial Public Offering)とは、企業が証券取引所に株式を上場し、一般の投資家に株式を公開することを指します。未上場の企業が新たに株式市場に参加することで、広く資金調達を行えるようになると同時に、企業の信用力や社会的な知名度が飛躍的に向上します。
IPOの主な目的には以下のようなものがあります。
- 資金調達の多様化:銀行融資に依存せずに成長資金を調達できる
- 社会的信用の向上:上場審査を経ることで、財務やガバナンス面での信頼性が高まる
- 従業員のモチベーション向上:ストックオプションなどによるインセンティブ設計が可能
- 創業者や既存株主の資金回収:株式を市場で売却することで現金化できる
一方で、IPOは「上場がゴール」ではなく、上場後の開示義務や統治体制、継続的な成長戦略が問われるスタートでもあります。そのため、準備段階から多くの専門家が関与し、長期的な計画と体制整備が求められます。
会計士が関与する場面
IPOを目指す企業では、財務面の信頼性やガバナンス体制の整備が不可欠であり、公認会計士はその中核的な存在として関与します。主な関与場面は以下の通りです。
- ショートレビュー・ロングフォームリポートの作成:IPO申請書類に必要な財務諸表や、監査意見の提出に対応
- 監査業務(上場準備期間含む):2期以上の監査意見が必要とされることが一般的
- 会計方針や内部統制の整備支援:上場基準を満たす体制構築をサポート
- 開示資料のレビュー:有価証券届出書や目論見書などに含まれる財務情報の適正性を確認
これらの業務を通じて、会計士は単なる「監査人」としてだけでなく、企業の成長フェーズを支える「信頼の担い手」として重要な役割を果たしています。
とくにIPO準備企業にとっては、初めて外部への開示や監査を受けるケースも多く、会計士による指導や助言がスムーズな上場実現に直結することも少なくありません。したがって、会計士にとってIPO支援は、専門性を最大限に活かせるやりがいのある業務領域のひとつです。
IPO準備企業が会計士を求める理由とは

IPOを目指す企業にとって、公認会計士の存在は極めて重要です。上場審査をクリアするには、財務の健全性だけでなく、開示体制や内部統制といった企業基盤の整備が欠かせません。ここでは、IPO準備企業がなぜ会計士を求めるのか、その具体的な理由を解説します。
上場に向けた審査に、会計の専門知識が欠かせない
IPOに際しては、証券取引所や証券会社、監査法人による厳格な審査が行われます。特に重要なのが、財務諸表の信頼性や会計処理の妥当性です。こうした項目については、高度な専門知識を持つ公認会計士による支援が不可欠であり、実務経験のある人材が求められます。
また、上場審査では過去2期以上にわたる監査済みの財務諸表の提出が求められるため、社内に会計士が在籍していることで、早期から準備を進めやすくなるというメリットもあります。
会計・内部統制・開示体制の整備に即戦力が求められる
IPOに向けては、単に数字を整えるだけでなく、企業としての“管理体制”を外部に説明可能な状態に整備していく必要があります。たとえば、J-SOX(日本版内部統制報告制度)に対応した内部統制の構築、開示書類の作成、業務プロセスの文書化など、多岐にわたる準備項目が発生します。
このような状況において、監査法人での実務経験がある公認会計士は、上場準備企業にとって非常に魅力的な人材です。即戦力として社内の制度整備やプロジェクト推進に携わることで、IPOスケジュールを着実に前進させる役割を果たします。
成長産業やスタートアップを中心に採用ニーズが拡大中
現在、IPOを目指す企業の多くは、IT・ヘルスケア・環境・SaaSといった成長産業に属するスタートアップです。こうした企業は、急成長と同時にガバナンスや財務体制の整備が後回しになっているケースも多く、専門人材の確保が喫緊の課題となっています。
この背景から、監査法人出身やIPO支援経験のある会計士に対するニーズが高まりつつあり、年齢や性別を問わず柔軟なキャリア採用が進められています。経営層と近い距離で働ける環境も多く、会計士としての価値を存分に発揮できるフィールドです。
上場後も会計士が活躍できるポジションは豊富
IPOが完了した後も、会計士の活躍の場は数多く存在します。四半期決算対応、有価証券報告書の作成、監査対応、IFRS導入支援、さらには経営企画やIRといった上場企業特有の職務が発生し、継続的な専門支援が求められます。
特に、上場企業のCFO候補や内部監査責任者、開示責任者といったポジションでは、会計士の専門性が高く評価されており、長期的なキャリア形成の選択肢としても魅力的です。
IPO支援における会計士の具体的な業務内容
IPOを目指す企業において、公認会計士は財務やガバナンス面の専門家として多岐にわたる支援を行います。ここでは、IPO支援の現場で実際に会計士が担う主要な業務を紹介します。
金融商品取引法監査・会計処理の助言
IPO準備において最も基本となるのが、金融商品取引法に基づく財務諸表の監査です。通常、IPOには過去2期分以上の監査済み財務諸表が必要であり、会計士はこの監査の実施と同時に、財務報告における会計処理の妥当性をチェック・助言します。
特に、税効果会計やストックオプション、企業結合といった複雑な論点が含まれる場合は、専門家による判断と調整が欠かせません。会計基準の変更への対応など、実務レベルでの支援も含まれます。
内部統制や開示体制の構築・支援
上場企業には、J-SOXに準拠した内部統制報告制度が義務付けられており、その構築・運用においても会計士の役割は大きなものです。業務プロセスの文書化やリスク評価、統制の有効性の確認といった実務に加えて、全社的なガバナンス体制の設計にも関わることがあります。
また、決算短信や有価証券報告書といった開示書類における財務情報の作成支援やレビュー業務も、会計士が得意とする分野です。
経理規程の策定・決算早期化対応
IPOに向けては、企業としての「見られる体制」を整える必要があり、その一環として経理規程や業務マニュアルの整備が求められます。会計士は、企業の実態に即した経理ルールを策定し、内部牽制の効いた体制づくりを支援します。
また、上場企業では四半期ごとの決算発表が求められるため、決算業務のスピードと正確性も重要です。現場の状況に応じた決算早期化の体制構築や業務フロー改善など、実務レベルでの関与が多く求められる領域です。
証券会社・証券取引所・監査法人との対応業務
IPOプロジェクトは、証券会社(主幹事)、証券取引所、監査法人、弁護士など、複数の関係者との連携が不可欠です。会計士は、その中で財務・会計に関する問い合わせ対応や資料の調整、スケジュール管理などの中心的な役割を担います。
特に、開示資料へのコメント対応や意見交換の場では、会計士の論理的かつ正確な説明力が求められ、プロジェクト全体の進行に大きな影響を与えます。社内外の専門家と連携しながら、IPOの実現に向けた舵取りを支える重要なポジションです。
IPO支援の経験はどのようなキャリアにつながる?

IPO支援は、公認会計士としての専門性を実務で深められる貴重な機会であり、その経験は将来の多様なキャリアパスにつながる強力な武器になります。ここでは、IPO支援経験がその後どのようなキャリアに展開していくかを具体的に紹介します。
上場企業でのCFOや経営幹部へのステップに
IPO準備に携わることで、会計・財務領域だけでなく、経営管理や資本政策、ガバナンス全般への理解も深まります。このような経験は、上場企業におけるCFO(最高財務責任者)や経営企画部門の幹部、管理本部長といった経営層への登用につながるケースが多くあります。
実際に、IPO経験者は「上場を知っている人材」として高く評価され、上場企業への転職市場でも引き合いが強いのが現状です。数字を扱うだけでなく、「経営に近いポジション」で活躍したい方にとって、IPO支援の経験は非常に大きなアドバンテージとなります。
コンサルやFASへのキャリアチェンジにも有利
IPO支援では、監査や会計処理にとどまらず、事業計画の作成支援、内部統制構築、上場審査対応、証券会社・監査法人との折衝など、多面的な業務に携わることになります。このような経験は、戦略・業務コンサルやFAS(財務アドバイザリー)といったプロフェッショナルファームへのキャリアチェンジにおいても高く評価されます。
特に、M&Aやバリュエーションなどの実務に携わりたい方にとって、IPO支援で得た事業評価や財務理解のスキルは非常に有用です。プロジェクトマネジメント経験も含めて、クライアントワークでの即戦力として活躍の場が広がります。
独立・起業後の支援実績としても強みになる
将来的に独立を考えている会計士にとっても、IPO支援経験は大きな武器になります。とくに、スタートアップ企業やベンチャー経営者からの信頼を得るうえで、「上場準備を実務で経験している」という実績は非常に説得力があります。
IPOに関わる財務アドバイザーやCFO代行業務、会計顧問、管理部門の立ち上げ支援といった業務は、独立後のコンサル業務としてもニーズが高く、単価や役割も大きくなりやすいのが特徴です。経験の蓄積がそのまま自身のブランド価値につながる分野といえるでしょう。
IPO準備企業に転職するメリット
監査法人や事業会社での経験を経て、IPO準備企業への転職を選ぶ公認会計士は年々増加しています。未上場企業が上場を目指す過程においては、変化と成長のスピードが早く、そのなかで働くことで得られる経験値ややりがいも大きなものになります。ここでは、IPO準備企業で働くことで得られる主なメリットを3つご紹介します。
経営に近い立場で働ける
IPO準備企業は、規模が比較的小さい場合が多く、会計士が経営陣と密に連携しながら業務を進める環境が整っています。経理・財務の枠を超えて、資本政策、予算編成、資金調達といった経営判断に関わる場面も多く、事業全体を俯瞰する視野が自然と身につきます。
「経営に近い立場で働きたい」「数字を使って経営に貢献したい」と考える方にとって、IPO準備企業は理想的な環境です。
ゼロから仕組みを作るやりがいがある
IPOを目指す企業では、制度や体制がまだ整っていないことも多く、経理規程や決算フロー、内部統制などを一から構築していく必要があります。そのため、単なる「業務担当者」ではなく、「仕組みを作る側」として主体的に関われる点が大きな魅力です。
過去の経験を活かして会社の土台をつくりあげていくプロセスは、日々の業務に確かな意義を感じられ、仕事へのモチベーションにもつながります。
自分の成長スピードが速くなる実感がある
IPO準備は、限られた時間の中で多くのタスクを同時並行で進める必要があり、自然と仕事の幅も広がります。監査対応、開示資料の作成、社内体制整備、ステークホルダーとの調整など、実に多様な業務を経験することになります。
その結果、「1年で3年分成長できた」と語る方も多く、変化のある環境でスピード感をもって成長したい方にとっては、非常に充実したキャリアステージとなるでしょう。
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