USCPA(米国公認会計士)とは
USCPA(U.S. Certified Public Accountant)は、アメリカ各州が認定する公認会計士資格です。米国基準や国際基準に基づく会計・監査に対応できる専門家として位置づけられており、グローバルに活躍するための代表的な会計資格のひとつです。
日本の公認会計士資格が「日本の会計・監査に特化した国家資格」であるのに対し、USCPAは米国の資格であるものの、英語力と会計知識を証明できることから、日本国内でも外資系企業やグローバル企業を中心に評価されています。
また、USCPAは国際的に知名度が高いため、転職や就職の際に能力を評価する際の指標となるでしょう。そのため、海外でキャリアを積みたい公認会計士や、監査法人から外資系企業・FASへの転職を検討する方にとって、有効な武器となる可能性があります。
USCPA試験の概要と受験資格
USCPA試験は、アメリカ各州の会計委員会(State Board of Accountancy)が実施する資格試験です。日本の公認会計士試験と比べて受験資格の幅が広く、英語力と一定の会計・ビジネス関連の単位を満たせば受験が可能です。さらに、科目合格制を採用しているため、働きながら段階的に資格取得を目指す人にも適しています。
2024年1月からは「CPA Evolution」と呼ばれる制度改正が導入され、試験科目や構成が大きく変更されました。これにより、従来以上に幅広いスキルや専門性が求められる内容となっています。
ここでは、受験条件、試験方式、そして2024年以降の制度変更点について整理します。
受験条件(単位要件・学歴など)
USCPA試験は、アメリカ各州の会計委員会が独自に出願条件を定めています。そのため、どの州で出願するかによって要件が異なりますが、基本的には以下の条件を満たす必要があります。
- 学歴要件:原則として大学卒業レベル(学士号)相当の学歴が必要。
- 単位要件:会計・ビジネス関連科目で一定数の単位を取得していること。多くの州では会計科目24単位以上、ビジネス科目24単位以上が目安とされています。
日本の大学を卒業した場合でも、取得した単位を米国評価機関に提出して審査を受ければ、受験資格を満たすことが可能です。
試験方式(CBT・科目合格制)
USCPA試験は、CBT(Computer Based Testing)方式で実施されており、プロメトリック社が運営するテストセンターでコンピュータを使って受験します。日本国内でも東京・大阪にテストセンターが設置されているため、渡航せずに受験できる点は大きなメリットです。
また、USCPA試験は科目合格制を採用しています。全科目に一度で合格する必要はなく、1科目ずつ段階的に合格を積み重ねていくことが可能です。合格済み科目は一定期間(18~36ヶ月間)有効となり、その間に残りの科目を合格すればよいため、働きながら資格取得を目指す人にとって取り組みやすい試験制度となっています。
この柔軟な仕組みは、日本の公認会計士試験と比べても特徴的であり、「仕事と両立して受験を進めたい」という人にとって大きな利点です。
2024年以降の試験制度の変更点
2024年から、USCPA試験は「CPA Evolution」という新しい制度に変わりました。これまでの 4科目制(FAR・AUD・REG・BEC) がなくなり、次のように再編されています。
必ず受ける3科目(コア科目)
- FAR(財務会計)
- AUD(監査)
- REG(税務・法規)
自分で選ぶ1科目(ディシプリン科目)
- BAR(企業分析・報告系)
- ISC(ITや内部統制系)
- TCP(税務・プランニング系)
つまり、全員が「会計・監査・税務の基礎」を学んだうえで、最後の1科目で自分の専門分野を選ぶ仕組みになったのです。
また、2023年までに合格していた科目は新制度に引き継がれます。たとえば BEC(旧制度の1科目)に合格していた人は、新しい選択科目に置き換えられる形になります。
参考:Transition Policy Announced for the 2024 CPA Exam Under the CPA Evolution Initiative – NASBA
この改正によって、会計士に求められるスキルが「会計や監査だけ」ではなく、データ分析・IT・国際税務など幅広くなってきていることが反映されています。受験者にとっては、どの分野を専門にするかを考えながら科目を選ぶ必要がある点が大きな違いです。
USCPA試験の難易度
USCPAは、働きながらでも挑戦しやすい資格として注目されていますが、決して「簡単に取れる資格」ではありません。出題はすべて英語で行われ、会計・監査・税務・ビジネス法など幅広い領域を網羅しているため、相応の準備が必要です。
ここでは、日本の公認会計士試験との比較、そして実際の合格率や学習時間の目安について整理します。
日本の公認会計士試験との比較
日本の公認会計士試験は、国家資格として非常に高い難易度を誇ります。短答式試験・論文式試験・実務補習を経て登録に至るまで、合格までに3,000時間以上の学習時間が必要といわれています。合格率も令和6年度は7.4%と狭き門です。
一方、USCPA試験は出題範囲が会計・監査・税務・ビジネス法などに及びますが、科目合格制を採用しており、1科目ずつ段階的に合格を積み上げられる点が特徴です。合格に必要な学習時間は一般的に1,000〜1,500時間程度とされ、日本の公認会計士試験よりは短期間で挑戦できます。
ただし、USCPAはすべて英語で出題されるため、英語力が合格の大きなハードルになります。特にリーディング力・リスニング力だけでなく、会計専門用語を正しく理解し、文章で解答する力が求められるため、英語に苦手意識がある方には難易度が高く感じられることもあります。
合格率と学習時間の目安
USCPA試験の合格率は科目ごとに異なりますが、概ね40〜60%前後で推移しています。日本の公認会計士試験の合格率に比べると高めであり、「挑戦しやすい資格」ともいわれる理由のひとつです。
一方で、合格に必要な学習時間は一般的に1,000〜1,500時間程度とされています。働きながら受験する場合は、1日2〜3時間の学習時間を確保して1年〜1年半ほどで全科目合格を目指すケースが多いです。
ただし、英語力やバックグラウンドによって大きく差が出るのも特徴です。監査法人での実務経験がある会計士であれば、会計や監査の理解が進んでいるため学習時間を短縮できることもありますが、英語に苦手意識がある場合は追加で基礎学習が必要になります。
「日本の会計士試験より短期間で合格できる可能性は高いが、英語力が大きな壁になる」これがUSCPAの難易度を表す一つのポイントといえるでしょう。
USCPAを取得するメリットとデメリット

USCPAは、国際的に通用する会計資格として大きな魅力があります。海外や外資系企業でのキャリアを切り開けるだけでなく、日本国内でも活躍の場を広げられる点が特徴です。また、英語力やグローバルな会計知識を証明できるため、キャリア形成において大きな強みとなります。
一方で、取得には学習時間や受験費用などのコストがかかるため、メリットとデメリットの両面を理解しておくことが重要です。ここでは、USCPAを取得する上での代表的な利点と注意点を整理します。
海外・外資系でのキャリアに有利
USCPAはアメリカの公認会計士資格であり、グローバルに認知度が高いのが最大の特徴です。そのため、外資系企業や海外拠点を持つ日本企業では高く評価され、キャリア形成に直結しやすい資格といえます。
特に、米国会計基準(US-GAAP)や国際会計基準(IFRS)を扱う企業では、USCPA保持者が求められる場面が多くあります。監査法人の国際部門やグローバル企業の財務・経理部門では、USCPAを持つことで案件へのアサインや昇進のチャンスが広がることも珍しくありません。
また、USCPAは「英語で会計を扱える専門家」であることの証明にもなるため、将来的に海外赴任やグローバル案件に関わりたい方にとって大きな武器となります。
日本国内でも活躍の場が広がる
USCPAは海外でのキャリアに直結するだけでなく、日本国内においても価値を発揮できます。とくに、外資系企業の日本法人や、海外取引の多い大手企業では、USCPA資格を持つ人材が重宝されます。
また、近年は監査法人やコンサルティングファームでも、国際案件やクロスボーダーM&A、グローバル基準に基づく会計対応の需要が増えています。こうした分野では、英語力と国際的な会計知識を備えたUSCPA保持者が強みを発揮できます。
つまり、国内にいながらも「国際基準に対応できる会計士」として存在感を示せるため、キャリアの選択肢が広がりやすいのです。
英語力やITスキルの証明になる
USCPA試験はすべて英語で実施されるため、合格することで実務レベルの英語力を客観的に証明できます。とくに会計や監査に関する専門用語を英語で理解し、回答できる能力は、グローバル企業や外資系ファームで高く評価されます。
さらに、新制度(CPA Evolution)では「情報システム・内部統制(ISC)」といった科目が導入され、データ分析やIT関連の知識も重視されています。これにより、従来の会計・監査スキルに加えて、テクノロジーを理解し活用できる人材であることを示すことができます。
つまり、USCPAは単なる会計資格にとどまらず、英語力とITリテラシーを兼ね備えたグローバル人材であることの証明にもなるのです。
取得にかかるコスト・ハードル
USCPAを取得するには、学習時間だけでなく経済的・精神的なコストもかかります。
まず費用面では、出願手続きや試験料、成績評価機関への単位認定費用などを含めると総額で60万〜100万円程度が必要です。さらに、予備校やオンライン講座を利用する場合は教材費・受講料が加わり、負担はより大きくなります。
学習面では、英語で出題される専門的な問題を理解する必要があり、英語力の強化と会計知識の習得を同時に進めることが大きなハードルになります。特に、リーディングスピードと会計用語の理解力が不足している場合は、学習時間が1,500時間を超えることも珍しくありません。
また、試験合格後も州によってはライセンス取得に追加単位や実務経験が求められるため、事前に条件を確認して計画的に進める必要があります。
USCPAのキャリアと就職先
USCPAを取得すると、活躍のフィールドは一気に広がります。監査法人をはじめ、FASやコンサルティングファーム、さらには外資系・グローバル企業の経理・財務部門など、国際的なスキルを活かせる職場で高い需要があります。
特に英語力を武器にできる点から、クロスボーダー案件や海外拠点との連携業務を担える人材として評価されるケースが多いのが特徴です。ここでは、代表的な就職先とキャリアの可能性を見ていきましょう。
FASやコンサルティングファーム
FAS(Financial Advisory Services)やコンサルティングファームでも、USCPAの知識は重宝されます。M&Aのデューデリジェンス、バリュエーション、事業再生支援、国際税務など、クロスボーダー取引を含む案件で、英語力と国際会計の知識を持つ人材が必要とされるからです。
特に、FASでは監査経験を活かして財務調査や企業価値評価に関わることができ、USCPAは「グローバル案件を任せられる専門家」としての強い証明となります。
外資系・グローバル企業の経理・財務
外資系企業やグローバルに事業を展開する日本企業では、経理・財務部門にUSCPA保持者を配置するケースが増えています。海外本社へのレポーティングや、国際基準に沿った決算業務を担う際に、英語と会計の両方に強い人材が求められるためです。
また、USCPAを持っていると、経理担当から財務企画、CFO候補といった経営に近いポジションへのキャリアアップにもつながりやすくなります。
監査法人(特にBIG4)
公認会計士の資格を持つ方はすでに監査法人で勤務されている方が多いかとは思いますが、USCPAを取得することで、監査法人のなかでも国際案件を多く扱うBIG4(PwC、EY、KPMG、Deloitte)で高く評価されることは確かです。米国会計基準(US-GAAP)や国際会計基準(IFRS)を担当する際に即戦力として認められやすく、国際部門や海外駐在のチャンスを得やすくなります。
また、日本の公認会計士資格と併せ持つことで、監査法人での専門性の幅をさらに広げられるでしょう。
公認会計士・USCPAの転職ならVRPパートナーズ
USCPAを取得したからといって、その後のキャリアが自動的に開けるわけではありません。資格をどのように活かすか、どの環境で成長していくかを見極めることが重要です。
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ここでは、USCPA取得後の具体的なキャリア事例や、公認会計士におすすめの求人例をご紹介します。
USCPA取得後のキャリア事例:USCPAの資格と英語力を活かしたBig4監査法人へキャリアチェンジ
年齢・性別:30代前半・女性
転職前:一般事業会社・貿易事務・年収550万円
転職後:大手監査法人・リスクコンサルタント・年収630万円
大学卒業後にメガバンクへ入社し法人融資営業を経験された後、配偶者の海外赴任に伴って退職。海外在住中にUSCPA全科目に合格し、帰国後は一般事業会社で貿易実務を担当されていました。お子さまが小学生になったことを機に、USCPAと英語力を活かしてプロフェッショナルファームでのキャリアアップを志向。
ご本人が関心を持たれていたコーポレートガバナンス領域に沿って、Big4各社の監査部門・アドバイザリー部門をご提案しました。直接的なGRC(ガバナンス・リスク・コンプライアンス)経験はなかったものの、メガバンクでの実務経験、USCPA資格、高い英語力が総合的に評価され、見事第一希望の大手監査法人から内定を獲得されました。
公認会計士にお勧めの求人例
【大手監査法人】リスクコンサルタント ●年収:700万~1,000万 ●業務内容: ・有事対応後の再発防止支援 ・データ・AIを活用したリスク予兆管理およびモニタリング ・リスクマネジメント ・コンプライアンスに関連するリスクマネジメント ・ESG(気候変動、人権など)及び地政学等に関連するリスクマネジメント ・内部統制(J-SOX、US-SOX、IT監査)対応 ・デジタル技術を活用した最適な内部統制・モニタリングの構築支援 ・財務経理・税務・法務・コンプライアンスに対する内部監査(IT監査含む) ・内部監査の品質評価対応 ・子会社あるいは海外事業管理を含めた経理ガバナンス ●おすすめポイント 不正対応、内部統制構築、リスク対応などの専門知識を活かし、企業のガバナンス・リスク・コンプライアンス(GRC)領域の強化を支援しています。 これにより、企業のインテグリティを高め、AI時代の進化など環境の変化に対応した持続可能な経営基盤を構築するための総合的なサービスを提供しています。 さらに、得意とするこれらの知見を活用し、会計監査における不正リスク対応の体制強化にも深く貢献しています。 |
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【大手監査法人】フォレンジック(不正調査、危機対策支援) ●年収:700万~1,000万 ●業務内容: ・コンプライアンスリスク対応支援:グローバルコンプライアンス態勢構築、贈収賄リスク対応支援、競争法リスク対応支援 ・不正対応支援:不正リスク評価支援、モニタリング/改善対応支援 ・不正調査:会計不正、品質偽装等の各種調査委員会等の支援 不正調査の対象は、会計不正、資産の不正流用、情報漏洩など、多岐に渡ります。 調査の手法としては、証憑書類の調査、関係者へのインタビュー、関係者が送受信したメールのレビュー、構成員向けアンケートなどがあります。 ●おすすめポイント: ・過去数年間の成長率は業界トップクラスで今後も高い成長率が期待されている領域である一方、この領域の専門家が少ない事から同分野での第一人者になれる可能性があります。 ・会計監査、経理・財務、法務・コンプライアンス、内部監査など多様なバックグランドの人材がおり、国籍や性別も多様です。 ・クロスボーダーの案件が多く、グローバルに活躍できるフィールドがあります。 |
まとめ
USCPA(米国公認会計士)は、英語力と会計知識を兼ね備えた国際的な専門家であることを証明できる資格です。難易度は日本の公認会計士試験よりは低いものの、英語での学習や試験対策、取得にかかる費用や時間など、乗り越えるべきハードルは決して小さくありません。
一方で、資格を取得すれば、監査法人やFAS、コンサルティングファーム、外資系企業の経理・財務など、キャリアの可能性は大きく広がります。特に、公認会計士資格と組み合わせることで、国内外を問わず高い評価を得られる人材として活躍の場が増えていくでしょう。
USCPAを目指すかどうかを判断する際には、試験の難易度や取得コストだけでなく、自分の将来のキャリアビジョンを見据えることが重要です。もし進路に迷った場合は、公認会計士のキャリア支援に特化したVRPパートナーズにご相談ください。あなたの強みや志向に合わせて、最適なキャリアの選択肢をご提案いたします。