公認会計士はワークライフバランスを重視できる?
公認会計士というと、専門性が高く高収入な職業である反面、「激務」「多忙」といったイメージを抱かれがちです。実際、大手監査法人に勤務する会計士の中には、繁忙期の長時間労働や突発的な対応に追われる場面も多く、プライベートの時間を十分に確保できないと感じる方もいます。
しかし、近年は状況が少しずつ変わりつつあります。2020年に実施された日本公認会計士協会近畿会のアンケート調査では、「定時で帰りやすい雰囲気」や「有給休暇を取得しやすい雰囲気がある」と答えた割合が、2017年の前回調査と比べて明確に増加しました。また、コロナ禍の影響によりテレワークを経験した会計士も9割を超え、その中には労働時間や通勤の負担が軽減されたと感じる人も一定数存在しています。
参考:ワーク・ライフ・バランスとキャリアに関するアンケート調査結果(2022年版)
「公認会計士は忙しくて当然」と諦めるのではなく、自分に合った勤務形態や業務内容を選択することで、仕事と私生活のバランスを見直すことは十分に可能です。実際に、監査法人以外のキャリアを選択したり、柔軟な勤務制度を活用したりする会計士も増えており、ワークライフバランスを重視した働き方が現実的な選択肢となりつつあります。
ワークライフバランスを見直した公認会計士の背景
近年、公認会計士としてのキャリアを歩む中で、働き方そのものを見直す方が増えています。その背景には、個人の価値観や生活環境の変化が大きく関係しています。具体的には、以下のような理由からワークライフバランスを重視する動きが強まっています。
ライフステージに変化があった
結婚や出産、育児といったライフステージの変化は、働き方の見直しを迫る大きなきっかけになります。特に監査法人のような繁忙期の波が大きい職場では、子育てや家庭の事情に合わせた働き方を続けることが難しくなることもあるでしょう。
たとえば、これまで深夜までの勤務や休日出勤をいとわず働いていた方でも、子どもの送り迎えや家族との時間を優先したいと考えるようになり、在宅勤務やフレックスタイム制度が整った職場への関心が高まる傾向にあります。
会計士としてのキャリアを継続しながらも、ライフスタイルに合わせて働ける環境を求めて転職を考えるケースは年々増加しています。
監査法人での激務に耐えられない
公認会計士の多くがキャリアのスタート地点として選ぶ監査法人は、実務経験を積むには最適な環境です。しかし、チーム単位で進める業務が多く、期末や四半期ごとの繁忙期には長時間労働が常態化しやすいという課題も抱えています。
最初はやりがいを感じていた業務も、心身の疲労やプライベートの犠牲が続くと、「このまま続けて良いのか」と疑問を抱くようになります。特に近年は、健康意識の高まりやメンタルヘルスへの関心が高まっており、自分の働き方を見つめ直すタイミングとして退職や転職を選ぶ人も少なくありません。
長時間労働を前提としない職場に移ることで、本来の専門性を活かしつつ、自分のペースで働ける道を模索する人が増えています。
公認会計士がワークライフバランスを整えるには?

公認会計士としての専門性を活かしつつ、より柔軟で自分らしい働き方を実現するには、キャリアの選択肢を広く捉えることが重要です。現在の職場で制度を活用する方法もあれば、思い切って環境そのものを変える選択もあります。ここでは、公認会計士がワークライフバランスを整えるための具体的なアプローチを紹介します。
在宅勤務や時短勤務を活用する
近年では、多くの監査法人や事業会社で在宅勤務制度や時短勤務制度が整備されつつあります。特に子育て中の方や、通勤時間を削減して効率的に働きたいと考える方にとって、これらの制度は大きな支えとなります。
在宅勤務は、集中しやすい環境で業務に取り組めるだけでなく、家族との時間を確保しやすいというメリットがあります。また、時短勤務を活用することで、仕事とプライベートのバランスを柔軟に調整できるようになります。制度があっても活用しにくい職場もあるため、実際の運用状況を確認することがポイントです。
監査部門以外の部署に異動する
同じ監査法人内でも、監査部門に比べてアドバイザリー部門や管理部門では比較的ワークライフバランスを取りやすい傾向があります。たとえば、IFRS導入支援、業務改善コンサル、内部統制支援などのアドバイザリー業務は、スケジュールに余裕を持ちやすく、突発的な対応も少ないケースが多いです。
また、法人内の異動であれば、転職に比べてリスクが少なく、これまでの実績や人間関係も活かしやすいため、環境を変える第一歩として検討しやすい選択肢と言えるでしょう。
監査法人以外に転職する
働き方そのものを見直す場合、監査法人の外に目を向けるのも有効な方法です。たとえば、事業会社の経理や財務部門、上場企業の内部監査部門、あるいは一般的には多忙な印象を持たれやすいFASやコンサルティングファームの中にも、残業が少なく柔軟な働き方が可能な環境が整っている会社もあり、多様なキャリアパスが考えられます。
これらの職場では、業務内容や繁忙期のサイクルが異なるため、ライフスタイルに合わせた働き方を実現しやすくなります。とくに、柔軟な勤務形態を導入している企業も増えており、自分の価値観に合った環境を選ぶことができれば、仕事へのモチベーションと生活の充実を両立させることが可能です。
ワークライフバランスを重視したいと考えるなら、現職に留まる前提にとらわれず、広い視野でキャリアを捉えることが大切です。
ワークライフバランスを重視しやすい職場の条件
働き方に対する価値観が多様化する中で、公認会計士としての専門性を維持しつつ、より自分らしい働き方を実現したいと考える方が増えています。そのためには、自身の希望に合った職場環境を選ぶことが重要です。以下では、ワークライフバランスを重視しやすい職場の具体的な条件について解説します。
業務の進め方が決まっている
属人的に業務を回すのではなく、一定のフローや手順が確立されている職場では、業務の引き継ぎや分担がしやすくなり、突発的な残業や休日対応を避けやすくなります。逆に、担当者ごとの裁量や責任が大きすぎる環境では、仕事が集中しやすく、結果として長時間労働に陥るケースも少なくありません。
業務の進め方がマニュアル化されていたり、プロジェクトのスケジュール管理が徹底されている職場では、無理のない計画で仕事を進めやすく、プライベートとの両立が可能になります。
勤務時間の調整・有給取得がしやすい
勤務時間の柔軟性も、ワークライフバランスを保つ上で欠かせない要素です。たとえば、フレックスタイム制度や、一定時間の中で勤務時間を調整できる制度が整っている職場では、通院や子どもの送迎といった私的な用事との両立がしやすくなります。
また、有給休暇の取得率や取得しやすさも重要な指標です。「制度として存在していても、実際は取りにくい」といった職場では、長期的にバランスの取れた働き方をするのが難しくなるため、実際の運用状況を確認することが大切です。
テレワークができる
テレワークは、通勤時間を削減できるだけでなく、業務の集中力や生活の自由度を高める効果もあります。特に、監査業務以外の領域やアドバイザリー業務などでは、オンラインでの打ち合わせや資料作成が中心になるため、テレワークとの相性も良好です。
総務省や民間の調査でも、東京都内を中心にテレワークの導入率は高まっており、2024年時点で東京圏では約21%の就業者がテレワークを実施しているという報告もあります。柔軟な働き方が可能かどうかを判断するうえで、テレワーク制度の有無は大きな要素になります。
育児・介護との両立支援制度がある
育児や介護といった家庭の事情と仕事を両立させるためには、職場の制度面での支援が不可欠です。短時間勤務や育児休業、看護休暇などが整備されている職場では、ライフイベントを理由にキャリアを諦めることなく、安心して働き続けることができます。
厚生労働省の調査によると、正社員のうち短時間勤務制度を利用している企業は半数以上にのぼるという結果も出ており、支援制度を活用しながら働くことは徐々に一般化しつつあります。ただし、制度があっても利用しづらい職場もあるため、導入だけでなく「実際に活用されているか」を見極めることが重要です。
ワークライフバランスが取れる公認会計士の転職先

監査法人での経験を活かしつつ、より自分らしい働き方を実現したいと考える公認会計士にとって、転職先の選定は非常に重要です。ワークライフバランスの取れた働き方を目指すなら、業務内容や繁忙期の有無、制度の充実度なども考慮しながら、以下のような選択肢が現実的かつ有力です。
事業会社の経理
事業会社の経理部門は、月次・四半期・年次決算のタイミングこそ忙しくなる傾向はあるものの、年間を通じて業務量の波が予測しやすく、スケジュール管理がしやすい環境です。また、固定された業務フローがあることが多いため、突発的な対応に追われることが少なく、比較的安定した働き方が実現できます。
特に上場企業では、内部統制やIFRS対応といった会計士のスキルが重宝される場面も多く、専門性を活かしながらプライベートとのバランスもとりやすい職場です。
上場企業の内部監査
内部監査部門も、公認会計士の転職先として人気の高い選択肢です。監査法人での経験が活きる分野でありながら、スケジュールの柔軟性が高く、繁忙期に左右されにくいという特徴があります。
内部監査の仕事は、業務プロセスの評価やリスク管理体制の確認などが中心となるため、クライアントワークのような納期プレッシャーは相対的に少なく、安定した働き方が実現可能です。また、グループ会社を横断する視点で業務に携われるため、広い視野を持って働くことができます。
監査法人の非監査部門
監査法人に在籍しながら、よりバランスのとれた働き方を希望する場合は、アドバイザリー部門への異動を検討するのも一つの方法です。
たとえば、IFRS導入支援や決算早期化、ガバナンス強化、M&A支援など、プロジェクトベースで動く仕事が多いため、業務の計画性が高く、個々の事情に応じて働き方を調整しやすい環境です。監査法人で培った知見を活かしつつ、クライアントにより深く関与できるという点もやりがいにつながります。
中小監査法人
監査業務自体にはやりがいを感じているものの、大手監査法人のような働き方に限界を感じている方には、中小監査法人も魅力的な選択肢です。案件の規模や組織の規模が小さい分、柔軟な働き方が可能なケースも多く、実際に育児や介護と両立しながら勤務している会計士も少なくありません。
また、クライアントとの距離が近く、経営層と直接やりとりをする機会も多いため、業務のやりがいや達成感を感じやすい点もメリットです。働きやすさと仕事の充実感を両立したい方には向いている環境と言えるでしょう。
ワークライフバランスを重視すると年収は下がる?
「ワークライフバランスを重視した働き方=年収が下がる」といったイメージを持っている方も多いかもしれません。実際、繁忙な監査法人やFAS業務などと比べると、勤務時間や責任範囲が限られる職場では、年収水準がやや抑えられるケースもあります。
ただし、それは一概には言えません。たとえば、上場企業の内部監査部門や経理財務部門など、安定した労働環境を確保しながらも、一定水準以上の報酬が得られるポジションも多数存在します。
重要なのは、「年収か、ワークライフバランスか」という二者択一で考えるのではなく、自身の価値観に合った働き方と報酬水準のバランスを見極めることです。家庭や健康、自己投資の時間を確保しながら、納得のいくキャリアを築くには、自分に合った職場を見つけることが不可欠です。
VRPパートナーズでは、公認会計士としての専門性や志向性を踏まえたうえで、年収と働き方の両面から最適なキャリア選択を支援しています。無理なく長く活躍できる職場環境を探したい方は、ぜひ一度ご相談ください。
まとめ
公認会計士としてのキャリアにおいて、ワークライフバランスを見直すことは、働き続けるうえでの大切な選択です。ライフステージの変化や心身の負担、将来への不安をきっかけに、柔軟な勤務制度の活用や監査法人外への転職を考える方も増えています。近年は制度や環境も整いつつあり、仕事と私生活の調和を実現することは十分に可能です。年収とのバランスを見極めながら、自分に合った働き方を見つけるためには、専門性に理解のある転職支援の存在が不可欠です。
ワークライフバランスとキャリアの両立を目指す方は、会計士特化のエージェントであるVRPパートナーズにご相談ください。自身に合った最適な選択肢を見つけられるはずです。